京都国立博物館 メールマガジン 臨時号 第49号[KNM:0049]

京都国立博物館では、現在、特別展観「上田秋成」・特集陳列「新収品
展」を開催しています。
「新収品展」にて展示中の作品より、「明皇・貴妃図屏風 狩野山雪筆」
をご紹介いたします。屏風に描かれた美女に会いに、ぜひご来館くださ
い。

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博物館Dictionary No167
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明皇(めいこう)・貴妃図屏風(きひずびょうぶ)
狩野山雪筆 京都国立博物館蔵

画像はこちら→
http://www.kyohaku.go.jp/jp/tenji/chinretsu/mmd/mmd167.html

 宮殿の庭園の一郭(いっかく)。左上、ごうごうと落ちる滝の水は、右
の方の池につながっているようです。水に面した場所に集う人々、華や
かに着飾った女性たちに囲まれる高貴(こうき)な男性の姿。中国・唐王
朝の第6代皇帝玄宗(げんそう)(685縲・62・在位712縲・56)で、明皇(め
いこう)とも呼ばれました。豹(ひょう)皮の敷物(しきもの)に座り横笛を
手にとっています。玄宗皇帝の視線の先で舞う女性が楊貴妃(ようきひ)。
今日、世界三大美女にも数えられたりする絶世(ぜっせい)の美女です。
貴妃の後には楽器を奏(かな)でる女性たち。どんな楽器ですか? 琴・
琵琶(びわ)・笙(しょう)・縦笛・横笛、弦楽器(げんがっき)と管楽器(か
んがっき)ですね。これに対し、玄宗の後に立ち並ぶ女性たちは、お香の
道具を乗せたお盆などを持っています。女性たちの華やかな服装はさま
ざまで、ひとつとして同じものはありません。
 玄宗皇帝と楊貴妃のラブストーリーは、約50年後の806年に白居易(は
くきょい)(白楽天(はくらくてん))が作った長編漢詩(かんし)の名作『長
恨歌(ちょうごんか)』によってよく知られるようになり、平安時代以降
の日本の文学にも大きな影響を与えました。七言の句を120句連ねた「古
詩(こし)」というスタイルの詩で、あらすじは次のようなものです。玄
宗は楊貴妃への愛情にのめりこんで、妃の縁者(えんじゃ)を次々と高位
(こうい)に採用(さいよう)します。その有様(ありさま)に反乱が起き、
玄宗は宮殿から逃げ出します。しかし貴妃をよく思わない兵は動かず、
それをなだめるため貴妃の殺害を許してしまいます。反乱が治まると玄
宗は都に戻りましたが、貴妃のことが思い出されるばかり。道(どう)士
(し)が仙術(せんじゅつ)を使って貴妃の魂(たましい)を捜(さが)し求め、
天界で見つけ出します。貴妃は道士に、玄宗との思い出の品と言葉をこ
とづけます。それは永遠の愛を誓い合った思い出の言葉だった、という
悲恋(ひれん)の物語で、現実と天の世界を行き来するなか、ふたりの愛
が哀(かな)しくも美しく歌い上げられます。
 この屏風も『長恨歌』に基(もと)づくもので、描かれた場面は、ふた
りがまだ幸せに暮らしていたときの一場面なのですが、詩では後半部、
楊貴妃が亡くなったあと、道士が天界の楊貴妃と語り合う部分に対応し
ています。「風吹仙袂飄颻挙(風が吹いて仙女の袂(たもと)はひらひらと
舞い上がり)、猶似霓裳羽衣舞(霓(げい)裳(しょう)羽(う)衣(い)の舞を
舞っているようだった)、玉容寂寞涙闌干(玉のような美しい顔は寂しげ
で、涙がぽろぽろとこぼれる)、梨花一枝春帶雨(梨の花が一枝、雨に濡
(ぬ)れたような風情(ふぜい)である)」と始まる部分で、画面中央、玄宗
皇帝の背後、水墨の山水画が描かれた衝立(ついたて)の奥に、梨の花が
咲(さ)き誇(ほこ)る様子が描かれています。
 ところで、左下に「狩野氏山雪」のサインがあり、「山雪」の印が捺(お)
されています。この屏風を描いた画家のサインです。狩野山雪(かのうさ
んせつ)(1590縲・651)は、江戸初期に京都で活躍した重要な画家です。
義理の父が狩野山楽(さんらく)。江戸時代に入り、徳川幕府の時代にな
ると、政治の中心は江戸に移り、狩野派の拠点(きょてん)も江戸へと移
りますが、京都に残って、濃厚(のうこう)で華麗(かれい)な狩野派の画
風(がふう)を守っていった一派がいました。それが狩野山楽・山雪には
じまる一派です。江戸に移った「江戸(えど)狩野(がのう)」に対して「京
(きょう)狩野(がのう)」と呼ばれ、幕末(ばくまつ)まで続きました。な
かでも狩野山雪は、たいへん個性的な画を描いた画家として注目されて
います。
 たとえば、玄宗の背後の松の枝ぶりに注目しましょう。その姿は、垂
直・水平に整えられています。画面左上の細長く縦に伸びる岩、それか
ら右の方の棕櫚(しゅろ)の樹にも、垂直線が繰(く)り返(かえ)され、ほ
っそりとした人物たちの垂直線とシンクロしていますね。人物たちを取
り囲む欄干(らんかん)や衝立などは、垂直と水平の線で構成されていま
す。つまり、構図は計算つくされ、垂直・水平をことさら強調すること
によって、とても整然(せいぜん)とした印象(いんしょう)が得(え)られ
るようになっているのです。これが、山雪の画の特徴(とくちょう)であ
り、魅力(みりょく)なのです。人物の吊(つ)り上った切れ長の眼、端正(た
んせい)な顔立ちなども、そうした造形(ぞうけい)感覚(かんかく)からき
ているのですが、人物はとても細かく丁寧(ていねい)に描かれています。
じっくり味わってみましょう。
(美術室 山下善也)

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